突然夫が亡くなった 急性心筋梗塞 2

受付を済ませて待合の椅子に座った。

 

娘達はすぐにタクシーで駆けつけてきた。

 

 

 

救急外来は子供達が小さい頃は夜中に高熱が出たりして何度も来たことがある。

いつも混んでいて、なかなか診察に呼ばれないイメージだ。

 

でもその日は私達だけだった。

 

 

 

とても怖かった。手遅れだったと先生が出てきたらとビクビクしていた。何か音がするとビクッとした。三人でとても緊張して待っていた。

 

「◯◯さん お入りください」

突然呼ばれて恐る恐る診察室に入った。

女性の先生が

 

「今は心臓が痙攣していて中々動かないので、エクモをつけています。」

 

今現在の状況説明はそれだけで、薬のアレルギーや色々な治療の同意書にサインするために呼ばれただけだった。

 

でも先生はすごく落ち着いていて必死な感じもなかったし、奥から懸命に蘇生してるような音とかバタバタしている様子もなく静かだったので、何時間かたったら話せるくらいにはなるのだろうと勝手に思った。

 

それから何時間たったかわからないけど、看護師さんが来て私だけ集中治療室の待合に移動するように言った。

 

救急外来の待合からそこはかなり遠い。夜中だし娘達だけにするのは嫌だったが、コロナの影響で1人までしか集中治療室の待合に入れないと言われた。

 

仕方がないので私だけ移動した。

救急外来の待合には受付の女性がいるし、警備員の男性もすぐ側に立っている。

 

危ないことはないが、娘達は不安だろうと思った。

 

看護師さんに案内されてまず集中治療室へ入った。

夫に会えるわけではない。

今後の入院の説明や連絡先の登録の為に看護師さんと30分くらい話した。状況は私からは話せないと言われた。

 

「介護が必要になった時、誰か頼れる大人はいますか?」と聞かれ

「いません」と答えた。

「娘さん達はまだ若いですもんね〜」

と言われたので

「え、介護が必要になる状況ですか?」

と聞くと

「一応確認です。」と言われた。

 

コロナなので病院には今後来ることはできないから毎日の着替えは全てレンタルを契約して欲しいなどの、この先も当然生きている体で話があったし、本当にダメならとうにダメだと思うし、何とかなっているのだろうと思っていた。

 

でも看護師さんのPHSが頻繁に鳴るので、悪い呼び出しだったらとビクビクした。

 

一通り説明が終わると

「娘さん達心配ですよね?

ほんとはダメだけど、こんな深夜に若い女性だけにしておけないから、呼んできてもらって一緒に集中治療室の待合で待ってもらっていいですよ。」と言ってもらえた。

 

真っ暗な病院の中、救急外来の待合まで行き方を聞いたけど迷ってしまって、本当に怖かった。

やっと辿り着いた時、娘達は本当に不安そうに立ち上がってこちらを見た。

 

「一緒に集中治療室の待合で待ってもいいって」

そう伝えて、三人でまた戻った。

 

それから全く誰からも何も言われないので、痺れを切らして朝七時頃、集中治療室のインターホンを押した。

「◯◯ですけど、今どういう状況でしょうか?」と尋ねてみた。

 

「お待ちください」

と看護師さんに言われ少し待つと、

「今医師が来ます」

そう言われ、何!なんで今まで何も言ってくれないの?と少しイライラした。

 

すぐに担当医師が待合に入ってきた。

私よりも背が低いくらいの30代か40代くらいの男性だった。

 

説明は中々心臓が動き出さないので、機械をつけて心臓の動きを助けている。という話だった。

「今からお一人づつ集中治療室に入っていただきます。」

そう言われて、病院に運ばれてから約7時間以上たって、やっと夫に会わせてもらえた。

 

口からは直径1センチくらいはありそうな管が入っていて、肺のあたりまで入っていると説明された。首に二箇所、腕も布団が掛けてあるから全ては見られないけど、沢山の管が繋がっていた。足の根元からも管が入っていると言っていた。

 

「心臓の冠動脈が詰まっていたのでカテーテルで血管の詰まりを治療して血液は流れたが、心臓が全然動き出さない心室細動という状態になっています。」

 

「今は薬で眠らせてしっかり体を休めて、自分の心臓で血液を身体中に送れるように機械が心臓の代わりをしている。」そのような説明だったと思う。

 

私の後に娘達が面会をして、帰ることになった。

コロナなので今後面会は一切禁止、一般病棟に移っても禁止と言われた。

チューブのついた歯ブラシ(看護師さんが歯磨きをしてくれるとき、水が肺の方に行かないように吸引できるもの)と、口に管が入っていて口が開いたままなので、保湿するジェルを下のコンビニで買ってきてくださいと言われ、それだけ買って届けてタクシーで帰宅した。

 

よく晴れた朝だった。

ちょうど小学生の通学時間で、こんなすごいことがあったなんて嘘みたいに普通の日だった。