三人で夫のベッドの側に行った。
それぞれに手を握ったり、足をさすったりして
何度も「ありがとう」と言った。
これが最後.....
最後に何も話せなかった。
最後の会話は
「あれ?やめたの?」
「うん」
たったそれだけ。
この時は生きていたのに...
これはほんとに現実なのかな?
夫は額に薄っすらと汗をかいていた。
「汗をかいているけど、苦しくはないですね?」
と尋ねると、大丈夫との答えだった。
数分すると医師が
「もう心臓は止まりました。」と言った。
医師が指を指す夫に繋がれている機械を見ると、心拍や血圧の波形がなくなり、真っ直ぐな線がツーっと流れていた。
その時は何故か感情はなかった。
G看護師から
「今から医師の死亡の宣言があります」
と言われ、娘達と夫のそばに立った。
医師が瞳孔の確認をして
「2月5日 5時31分 ご臨終です」
と宣言をした。
「この後は機械を全て外して、体を綺麗にしますので、ご遺体を引取りに来てくれる葬儀屋さんを探して下さい」
「あと、ご遺体に着せるものを用意して下さい。家から持ってきてもらってもいいし、一階の自販機に入院用の浴衣が売っているからそれでもいいですよ」
と言われ、すぐ手に入る浴衣にした。
娘達が買いに行ってくれた。
「最後に私たちも何かしたい」
と言うと、
「その時間ちゃんと作りますね」
と言ってくれた。
葬儀の事はさっぱりわからないし、互助会などにも入っていなかったので、家から1番近い葬儀場に電話をかけた。
早朝でもちゃんと電話が繋がった。当たり前かな?
体を綺麗にしてもらうことをエンゼルケアというようで、それに2時間近くかかった。
ようやくG看護師が呼びに来てくれ、三人で夫の髪を洗って、ドライヤーをかけた。
そのあと、薄く化粧をした。
全て終わって、葬儀屋さんに頼んだ時間を過ぎていたので気になったいたが、化粧が終わったあとどうしたらいいのか、G看護師がそれっきりいなくなってしまって困った。
近くにいた女性の看護師さんに聞いて、夫を葬儀屋さんが迎えに来てくれている一階の場所まで先生達が運ぶから、別ルートからそこまで来てくれと言われた。
そこに着くとタンカから車に夫を乗せるところだったので、
「丁寧にお願いします!」
と言えた。
そこで夫を葬儀社にお願いして、先生達と車を見送った。
悲しいという感情より、この後どうすればいいのか、初めてのことを次々とこなさなくてはいけなくて不安しかなかった。